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最高裁判所第三小法廷 平成元年(行ツ)127号 判決

神戸市中央区三宮町二丁目一一番二号

上告人

株式会社ファミリア

右代表者代表取締役

岡崎晴彦

右訴訟代理人弁護士

小松正次郎

小松陽一郎

東京都千代田区神田小川町二丁目八番地

光輪ビル

被上告人

株式会社フアミリー

右代表者代表取締役

谷尚仁

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(行ケ)第三〇三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年七月一一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小松正次郎、同小松陽一郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 安岡滿彦 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫)

(平成元年(行ツ)第一二七号 上告人 株式会社ファミリア)

上告代理人小松正次郎、同小松陽一郎の上告理由

○ 上告理由書(その一)記載の上告理由

上告理由第一点。原判決は、商標法第五〇条の規定の法律解釈を誤まり、被上告人が本件の商標登録の取消審判請求について、法律上の正当な請求の利益を有しないに拘わらず、これを有するものと誤認した違法及び審理不尽、理由不備の違法がある。

一、原判決は、「被告(被上告人)は、被告出願商標を第一類を指定商品として(指定商品をその後、「ルーデサツク、子宮サツク、子宮ベツサリー、避妊用具」と補正)商標登録出願(昭和五三年商標登録願第六九五〇七号)をしたが、本件商標と連合する登録第六七八八六三号商標を引用した拒絶査定がなされたため、これに対する不服の審判請求に及んだ、そして被告出願商標の指定商品を前記のとおり補正したところ、あらためて本件商標を引用した拒絶理由通知を受け、現に審判継続中である』との事実を認定した上(原判決理由8行ないし16行)、「右事実関係によれば、本件審判請求の結果いかんは、被告の前記出願商標についての審判請求に法的影響を及ぼし得る関係にあるものというべきであるから、右被告出願商標についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず、被告は、本件商標の不使用を理由にその登録取消を求める法律上の利益を有するものといわなければならない。」と判示した(仝理由17行ないし22行)。

二、そして、上告人が、原審において、「被告(被上告人)は、本件商標と被告出願商標とが類似していることを自ら認めているものであり、被告出願商標について拒絶理由の解消を得ることができないことが明らかである以上、拒絶理由の解消を得る目的でなされる登録取消審判請求は何の目的もないものとなるから、被告に本件審判請求の利益はない」との上告人の原審における主張を掲記した(仝理由32行ないし37行)。

三、この上告人の原審における主張及びその立証は、原審平成元年六月六日附第三準備書面第二項、第三項、第四項及び甲第7号証の1、2、3、甲第8号証ないし甲第11号証をもつて、明らかにしたところであるが、原審の判断の誤りを指摘する必要上、これを要約して摘示すれば次ぎの如くである。

(一) 上告人所有の登録第六七八八六三号商標「FAMILIAR」(昭和三七年六月十一日登録出願、昭和四〇年六月十九日登録-先願、先登録商標)の存在を無視して被上告人は昭和五三年九月二二日本件商標「Family」を登録出願したが(甲第7号証の3-商願昭五三-六九五〇七)、商標法第四条第一項第十一号に抵触するとして拒絶査定がなされ、査定不服の審判請求中、本件登録商標「フアミリア」と類似であつて、その登録商標に係る指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法第四条第一項第十一号に該当する旨の昭和六〇年十二月十七日付拒絶理由通知書の送達を受けた(甲第7号証の1)。

(二) 被上告人は本件登録取消の審判請求に及んだが(審判昭六二-四二七五)その審判事件において、被上告人は、

〔1〕 「第1類」の商品について、「フアミリー」と「フアミリア」とは称呼上も類似すると極力主張しており(甲第7号証の1。甲第8号証。甲第9号証。甲第10号証。甲第11号証)、

〔2〕 特許庁が前記のように本件出願商標「Family」(称呼上フアミリー)は、本件登録商標「フアミリア」と類似する商標であるとの具体的な判断を示している(甲第7号証の1)に対し、被上告人は右特許庁の類似であるとの判断を争うどころか、却つて、右特許庁の判断が正当であることを裏付けるように「フアミリー」と「フアミリア」とは称呼上類似する商標であると主張するのであるから(甲第7号証の2。甲第8、9、10、11号証)、被上告人は、その出願商標「Family」の拒絶理由の解消を得ることが到底できないことは、火を見るよりも明らかである。このようにその出願商標「Family」(称呼上フアミリー)について、拒絶理由の解消を得ることが到底できないということが具体的に明々白々であるという「特別の事情」が存する本件の事案のもとにおいては、本来、拒絶理由の解消を得るための目的をもつてなされるべき取消審判請求は、何の目的もないものとなり、唯徒らに行政機関に煩瑣な無用の手数をわずらわすだけのものに過ぎないものとなるから、審判請求の利益はない」。

四、右上告人の原審における主張に対し、原判決は、「被告(被上告人)は、被告出願商標(「Family」)について、本件商標(「フアミリア」)を引用した拒絶理由通知(甲第7号証の1)を受け、両者は類似していると認識しているからこそ、不使用になつている本件商標の登録を取り消すことによつて拒絶理由の解消を得んものとしているのであつて、本件商標(フアミリア)と被告出願商標(「Family」-称呼上「フアミリー」)とが類似していることを被告(被上告人)が自認していることをもつて、被告(被上告人)に審判請求の利益がないことの特別の事情ありとする原告(上告人)の右主張は理由がない。」として上告人の原審における主張を排斥したのであるが、しかし、「被告出願商標(Family)について、本件商標(フアミリア)を引用した拒絶理由通知(甲第7号証の1-商標法第四条第一項第十一号に該当する)を受けた被告(被上告人)が、両者(Family(フアミリー)とフアミリア)は非類似だと認識しているのであれば別である」が、原判示の如く、「両者が類似していると認識している」に拘わらず、本件商標の指定商品(藥剤・医療補助品)中の不使用になつている「医療補助品」の極く一部の登録の取り消しによつて、何故に「拒絶理由の解消」を得る可能性があるとの原判示であるのか、全く理由不明であり、この点に原判決は審理不尽、理由不備の違法がある。

五、「不使用取消審判の請求人については」、唯単に「一般的、抽象的な利害関係では足らない」ものであつて、「登録商標の商標登録が取消されることについて」、少なくとも「個別的、具体的な法律上の利害関係を有す」ることが請求の利益を肯認する上において、必須不可欠の要件である(東京高裁、昭和五七年(行ケ)第六七号、昭和六〇年五月十四日判決)。

原判決は、「本件審判請求の結果いかんは、被告(被上告人)の前記出願商標についての審判請求に法的影響を及ぼし得る関係にあるものというべきであるから、被告出願商標(Family)についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず、被告は、本件商標(フアミリア)の不使用を理由にその登録取消を求める法律上の利益を有する」(仝理由17行ないし22行)と判示して右「一般的、抽象的」な判断のもとに被上告人に本件審判請求の利益を認定したのであるが、これは商標登録取消審判については、「商標登録が取消されることについて」、「個別的、具体的な法律上の利害関係を有する」ことを必須要件とするとの前記判例(東京高裁、昭和六〇年五月十四日)の判旨に背反するのみならず、「被告出願商標(Family)についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず」被上告人に、法律上の利益を肯認するが如きは、「被告出願商標が拒絶理由通知を受けた場合であつても、拒絶査定が確定した場合には、法律上の利益がない」(昭和五五年審判第一一、五二三号昭和63年9月1日審決)-〔本件審判請求するにあたり、利害関係の根拠とした商標登録出願(商願昭五五-四〇三五九号)は、すでに拒絶査定が確定しており云々〕との法理及び原判決中「不使用になつている本件商標の登録を取り清すことによつて拒絶理由の解消を得んものとしている云々」(仝39行ないし41行)との判示部分に徴し、誤つた判断というのほかはない。

六、これを要するに、原判決が右の如く「被告(被上告人)出願商標(Family)についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず、」「被告は本件商標(フアミリア)の不使用を理由にその登録取消を求める法律上の利益を有する」との判断は、商標法第五〇条の規定の法律解釈を誤まり、審理不尽、理由不備の違法があり、この違法は判決に影響き及ぼすことが明らかなものである。

以上

○ 上告理由書(その二)記載の上告理由

上告理由第二点。原判決は、上告人が原審において主張した「特別の事情」の存否について何らの判断も示さなかつた審理不尽、理由不備の違法がある。

一、原判決は、その理由二項において、本件の事実関係を確定し(仝理由8行ないし16行)、「右事実関係によれば、本件審判請求の結果いかんは、被告の前記出願商標(Family)についての審判請求に法的影響を及ぼし得る関係にあるものというべきであるから」、「右被告出願商標についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず」、「被告は、本件商標の不使用を理由にその登録取消を求める法律上の利益を有する」旨判示した。右判示は、審決(甲第1号証)中、「査定不服の具体的成否と請求人が本件審判請求をなす資格を有することとは直接的な関係に立つものとはいえず、」(甲第1号証、5頁、11行ないし13行)との判断事項に該当しているものであるところ、上告人は原審平成元年六月六日の口頭弁論において、第三準備書面(平成元年六月六日附)第二項、第三項、第四項、第五項をもつて、被上告人が出願商標(Family)と本件商標(フアミリア)が類似商標であると主張し、特許庁が両商標は類似するとの見解、判断を、被上告人が、特許庁の右審理における見解、判断を拍車、増幅しているという「特別の事情」を主張し且つ立証した(甲第7号証の1、2、3、甲第8、9、10、11号証)。

二、しかるに原審は、「原告の右〈2〉の主張は、結局、本件審判請求の利益の有無に関する主張に尽きるもので」あるとして、相変らず「右被告出願商標についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず」被上告人に法律上の利益を認め、特許庁の「査定不服の具体的成否と本件審判請求をなす資格を有することとは直接的な関係に立つものではない」との特許庁の見解を支持するに急で、上告人の原審において主張した「特別の事情」の存否については、一顧だにすることなく、「審決に判断の遺脱はない」として一蹴し去つたのであるが、「被告出願商標についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず」法律上の利益を認めるということは違法であると思量する。何となれば、「被告出願商標が拒絶理由通知を受けた場合、拒絶査定が確定した場合には法律上の利益がない」との審決(昭和55年審判第一一、五二三号、昭和63年9月1日審決)があるが、この審決が合理的で正当であるとするならば、「被告出願商標についての審判事件の帰趨いかんにかかわらず云々」との判示は全く理由のない判示となつてしまうからである。

三、右のように上告人の原審における「特別の事情」を無視又は黙殺し去つた原判決は、余りにも独断に過ぎるものと思量され、この点に審理不尽、理由不備の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものである。

以上

○ 上告理由書(その三)記載の上告理由

上告理由第三点。原判決は、経験則を無視し、事実誤認、審理不尽、理由不備の違法がある。

一、上告人の原審における本位的主張は、原判決「第二」請求原因、三項「審決の取消事由」「1」(一)に一応摘示されている(原判決第7枚目表1行ないし仝裏8行)。すなわち、「審決(原審甲第一号証)は、被告(被上告人)は「Family」の文字より成る商標(以下「被告出願商標という。)につき、第一類を指定商品として商標登録出願し(指定商品についてはその後「ルーデサツク、子宮サツク、子宮べツサリー、避妊用具」と補正された。)、昭和五三年商標登録願第六九五〇七号として審査され、本件商標と連合する登録第六七八八六三号商標を引用した拒絶査定を受けたため審判請求に及んだところ、あらためて本件商標(「フアミリア」)を引用した拒絶理由通知を受け、現在に至つているものであるから、被告には本件審判請求についで利益がある、と認定、判断している。

しかしをがら、被告出願商標(「Family」)と本件商標(「フアミリア」)とは、語尾の「ヤ(ア)」の有無、アクセントの相違からして称呼上別異のものであり過去の登録例、その審理の経緯などよりみても両者は非類似である。したがつて、被告出願商標の設定登録に当つては、本件商標(「フアミリア」)は何ら障害となるものではないから、被告は、本件商標に対し、あえてその登録取消の審判請求をする必要性はなく、請求の利益はない。」のである。

二、右上告人の原審における本位的主張について、上告人は原審平成元年四月二〇日の口頭弁論において同年同月同日附第二準備書面を陳述し、右本位的主張を具体的に次ぎの如く明確にした。

(一) 本件の「第一類」の商品について、「FAMILIAR」が登録第六七八八六三号商標として、先願、先登録の商標(昭和三七年六月十一日登録出願、昭和四〇年六月十九日登録)として存在しているに対し、「フアミリー」が後願、後登録(昭和四一年一〇月十四日登録出願、昭和四四年一月二一日登録第八〇四七六三号商標として登録)されている事実は、本件の「第一類」の商品については、両商標が非類似であるからであり、従つて、右特許庁の登録例からみても、本件取消審判請求の必要性はなく、被上告人に本件審判請求の利益がないものといわなければならない。

(二) 被告出願商標「Family(フアミリー)」と引用商標「フアミリア」の冒頭の三連音は決して同じアクセントで称呼されるものではなく、引用商標「フアミリヤ(ア)」は「ミ」に強いアクセントがあり、被告出願商標「フアミリー」は「フア」に強いアクセントがあることは、英語の普及せる今日、公知の称呼事項であるから、称呼上の識別性は一層強大であるのが、実際の取引の実情である。

さらに、右「フアミリヤ(ア)」と「フアミリー」の語尾の「ヤ」の有無が両者の識別性の拍車、増幅するものであることは

「(a)「メイジヤ」と「メイジ」(大判昭一七・六・一〇民集二一巻六五一頁)

(b)「マルミヤ」と「マルミ」(審決昭三五・二・二九審決公報二二二号四一頁)

(c)「センリヨーヤ」と「センリヨー」(東高昭三八・一・二九行裁例集一五巻七号一三七八頁)」

の審判決例がこれを明らかにしている。

(三) その上、「フアミリア」は、上告人の商号商標であり、「フアミリー」は、被告の商号商標であるから、これをも勘案すれば「フアミリア」と「Family(フアミリー)」との非類似性は明白である。

三、右上告人の原審における本位的主張については、原審は、一顧だにせず、漫然「本件商標(「フアミリア」)の存在は被告出願商標「Family」(称呼上フアミリー)にとつて「具体的な障害」「となつているものといわざるを得ず、被告の本件審判請求の利益は肯認すべきである」旨判示したが、(原判決理由29行ないし31行)、前記上告人主張の如き経験則を無視し、事実誤認、審理不尽、理由不備の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものである。

以上

一、第一類「ルーデサツク、子宮サツク、子宮ベツサリー、避妊用具」を指定商品とし、「Family」の欧文字よりなる商標の登録出願に対し、同類「薬剤、医療補助品」を指定商品とし、「フアミリア」の片仮名文字を横書きしてなる登録商標を引用した拒絶査定を受けたため、これに対する審判を請求し、これが現に継続中である場合において、右審判の請求人が、右登録商標の商標権者を被請求人として、商標法五〇条に基づき、その指定商品中右自己の商標登録出願におけるものと同一の指定商品に係る商標登録の取消しを求める審判を請求したことにつき、その結果いかんは、右前者の審判請求に法的影響を及ぼし得る関係にあるものというべきであるから、その帰すういかんにかかわらず、右前者の審判の請求人は、右後者の審判を請求する法律上の利益を有するとした事例

二、一掲記の登録商標ないしその連合商標が、その商標登録の取消しを求める同掲記の後者の審判請求の登録前三年以内に日本国内において、その指定商品中右審判請求に係る指定商品について、使用されなかったものであるとして、商標法五〇条一項により、その登録を取り消すべきものとした審決の認定、判断が、正当であるとされた事例

○ 判決要旨

一、二、省略

一 否 判示一は当然かも知れないが・・・

[参考]

〔不使用による商標登録取消しの審判を請求し得る者の範囲〕 不使用による商標登録取消しの審判を請求することができるのは、当該審判請求について法的利益を有する者に限られる。(東京高55・11・12判、五五**一四六、一二巻二号六七八頁)

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